【雑文】豆による失敗談(節分だけに)

私は食べ物の好き嫌いがほとんどないが、唯一どうしても受け付けない料理がある。

豆ご飯だ。

 

塩味の効いたご飯となんか緑色の豆(グリーンピース?うぐいすまめ?)が一緒に炊かれているあれだ。

同じ豆ご飯でも赤飯は大好物なのに、米と豆の種類が変わるだけでこんなにも苦手意識が芽生えるのは自分でも不思議な話だ。

 

人様のお宅で食事をご馳走になった際に、この豆ご飯が登場したことがある。せっかく用意していただいた料理を残すのは、食を愛する私の信念に反するので、なるべく味を感じないようにほとんど咀嚼をしないまま丸呑みするという、さながらペリカンのような食べ方で乗り切ったこともある。(それも失礼やろ)

 

 

それはさて置き、最近私は市販のカレールーを使わず、カレー粉と玉ねぎやヨーグルト、トマト缶などを使ってスパイスカレーを作ることにハマっている。というのも、ここ数年、カレールーを使ったカレーを食べた後、必ずと言って良いほど胸焼けを起こすようになったのだ。カレールーには想像以上の小麦粉や油が入っているので、アラサーの胃袋に負担をかけてるのではないか?と考え、カレールーを使わないカレーの調理に勤しんでいる。

 

しかし、これが夫からの評判がすこぶる悪い。具材ごろごろな王道のおうちカレーこそが正義であり、私のような特別料理が得意なわけじゃないスパイスカレー素人の作る、なんか酸味のある(トマト缶とヨーグルト使ってる為)シャバシャバのスパイスカレーはカレーとは呼ばない!というのが彼の主張である。

その意見には私も概ね同意である。味は圧倒的にカレールーの方が美味しいからね。でも我が家の料理担当として、家族の健康を願って少しでも身体にいい材料でカレーを作ろうとしてることも理解して欲しい(胃もたれしてるのは私だけだが)。私かて胃もたれしてなかったらカレールーのカレーが食べてぇよ…(食べたいんかい)

 

そんな悪評を受けながらも、昨日もスパイスカレーを作っていた。今回は不評の元である酸味を少しでも飛ばす為に、少し砂糖を入れ、なるべく煮込んで改良を試みた。途中で味見をしたところ、今まで作ったものよりマイルドで食べやすい味に仕上がっていた。

お!これは美味しいぞ!今まで作ったスパイスカレーの中でも一番の出来だ!今日のカレーなら夫も認めてくれるはず!

そう思っていた。この時までは…

 

一方で、台所に侵入してきた息子が、私の背後で色んな缶詰めを積み木のように何個も積み重ねて遊んでいた。ツナ缶にサバ缶にトマト缶にミックスビーンズ缶、色んな大きさの缶詰をバラエティ豊かに積んでいる様子を私は微笑ましく眺めていた。

 

…ん?ミックスビーンズ缶?

そうだ、以前安売りしてたときにいつか使おうと買ったやつだ。今日のメニュー、野菜少なめだしサラダに足そうかな。うーん、それもいいけど、昔よく行ってたインド料理屋さんの日替わりメニューにひよこまめのカレーってあったよな。ってことはカレーに入れても美味しいんじゃないか?

 

そう考えた私は、息子が遊んでいたミックスビーンズ缶をひとつ拝借し、迷うことなくカレーの中に入れた。色とりどりのカラフルな豆が、単調な色のカレーの中に少しばかりの華やかさを彩った。

 

ええやんええやん!栄養も増えて色合いも良くなったやん!ええやんええやん!

私は嬉々としてそのままカレーを煮込んだ。

 

 

しばらくすると夫が帰宅した。

匂いと私が煮込んでいる鍋の中身を覗いて苦笑いを浮かべた後「カレーかぁ…」と力無く呟いた。

「ちょ!今日のは美味しいで!今までのと全然違うから!落ち込まないで!」

私は明らかにテンションの低い夫を励ます。

 

「今日のは酸味もなくて美味しいからね〜!いただきまーす」と豪語し、いざ実食!

 

 

 

え??まず!!!!

カレーの味は悪くないんだが、豆が非常に邪魔!それこそ苦手な豆ご飯にスパイスカレーがかかってるような感じ!

それにしても豆の主張つよ!!!

例えるなら平日昼間の静かな住宅街に、僕たちここにいます!!!豆です!!!非常に栄養価が高くあなたの身となり骨となり頑張ります!!!豆です!!!豆です!!!と、せっかく政策はまともなのに選挙活動中の騒音で嫌われる議員の如く、安静なカレーの中で一際目立とうとしてくる。

 

インド料理屋さんのひよこ豆カレーはあんなに美味しいのに、同じ豆でもなぜこうも違う?あれか、先述した赤飯はよくても豆ご飯はあかんという謎現象が起きてるのか?

 

アンチスパイスカレー民の夫はもちろんのこと、普段は自分の分だけでは物足りず、人のご飯を奪おうとする非常に食欲旺盛な息子までもほとんど箸(スプーン)が進んでいなかった。更に息子は、カレーに含まれる豆だけを皿から摘出し床に向かってポイポイ投げ始め、一足早く冬の風物詩、豆まきを始めてしまった。食事開始から数分後、リビングにカレーまみれの豆が散乱する悲惨な光景が広がった…

 

夫よ、息子よ、何の罪もない豆たちよ、本当に申し訳ない。

あのとき私がカレーに豆を混入しなければこんなことにはならなかった。過去に戻れるなら、ミックスビーンズの蓋を開ける前の私に「やめておけ!美味しくない上に部屋が豆だらけになるぞ!」と忠告したい。

 

最終的に私は豆を噛まずに飲み込むペリカン食事法で自分のノルマを食べきったが、やはり夫と息子は食べきれずに豆を残してしまった。完全に私の判断ミスである。本来なら美味しく食べられるはずだった豆たちの未来を、このような形で潰してしまったことは猛省しなければいけない。

 

二度と同じ過ちを繰り返さないと誓い、今日は厄を祓う為に自ら鬼となり、夫と息子に豆を投げつけてもらおうと思う。