【後編】オールナイトニッポンに出た話

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番組が始まった。

この日はBEAT CRUSADERSのボーカルでありメインパーソナリティのヒダカトオルさんの他に、ギターのカトウタロウさんも出演されていた。

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今もなお現役でお風呂上がりに息子の体を拭いているビークルバスタオル。

 

なんてこった。ただでさえなんちゃって耳コピを披露するのに、カトウタロウさんまでいる!「オリジナルと全然違うじゃねーか!」ってならないかな。不安と緊張で吐きそうになっていた。

 

心臓バクバクしながら全く内容が頭に入ってこないまま放送を聞くこと小一時間、ついに握りしめていた電話の子機が鳴った。

 

「オカモンヌさんですね。あと5分ほどでコーナーが始まります。それまで電話を繋いだまま、ヒダカさんの合図が出るまで待っていてください。頑張ってくださいね」

スタッフの男性からの電話を受け取った時は緊張が最高潮に達していた。未だかつてこんなに緊張したことがあっただろうか。落ちたら滑り止めの全く行きたくない高校に行かなきゃいけなくなるというプレッシャーが掛かった高校受験の方がまだ緊張しなかったぞ。

 

そしていよいよコーナーが始まり、ヒダカさんとカトウさんが話し始める。

(私の記憶で書いているため、実際の放送とは細かいディテールが違っているかもしれない)

 

ヒダカさん「今回の挑戦者は兵庫県の女子高生オカモンヌちゃん!なんと二度目の応募です。一度採用の電話がかかってきた時はお弁当屋さんのバイト中で、電話をとったお母さんがイタズラだと思ってガチャ切りしたらい」

カトウさん「おかあさーん!けど、また応募してくれたんだね!」

ヒダカさん「それでねー、オカモンヌちゃんの履歴書がいま手元にあるんだけど、筆ペンで迫力満点な字で書いてくれてんのよ」

カトウさん「これは…鬼気迫る感じだね」

ヒダカさん「そんなオカモンヌちゃん、悲願の登場です!どうぞ!!」

 

つ、ついに呼ばれた!!!

バイト代で買ったマーシャルのミニアンプの前に電話の子機を置き、知り合いのおじさんが拾ってきたギターを震える手で掻き鳴らす。

私が弾いたのは、ビークルの知る人ぞ知る名曲「BLOCKBASTARD」のサビ部分。メロディが可愛くて大好きだったので、聴き込んで耳コピしていたのだ。伝われ、私のビークル愛!


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ヒダカさん「これは!私達のBLOCKBASTARDですね!けどこの曲、スコア(譜面)化してないんだけど、どうしてこんなに弾けるの?」

私「あ、あの…大好きなんで、耳コピしたんです…」

緊張のあまり虫の鳴くような声で答える私。

 

カトウさん「え!耳コピなの!?上手すぎるよ!本当にバンドやったことないの?」

私「はい…」

おいお前、自ら企画に応募して憧れの人たちと喋るテンションちゃうぞ。

 

ヒダカさん「オカモンヌちゃんこの企画の趣旨わかってる?ギター素人が応募するコーナーだよ?」

私「はい…」

ヒダカさん「いやいや、だけど耳コピでここまで弾けるのはすごいよ!あと今弾いてるギター、知り合いのおじさんがゴミ捨て場から拾ってきたギターなんだって?」

カトウさん「ゴミ捨て場から!?もう漫画じゃん!これ今から伝説作るやつだよ!」

私があまりにも(ガチガチに緊張して)綾波みたいな返ししかしないもんだから、盛り上げてくれるヒダカさんとカトウさん。ラジオパーソナリティってすごい。

 

ヒダカさん「それにしてもオカモンヌちゃん!字が汚い!!」

カトウさん「あははは!!いやほんと!!けどこれに出たいって気持ちはめっちゃ伝わってくるよ!ロックを感じるね!」

私「あは…しゃっす…」

 

全国ネットで字が汚いのが露呈する、やる気だけは人一倍ある寡黙女子高生。行動力とテンションが比例していない。

 

そして次は対戦相手の方の演奏が始まる。言い忘れていたが、このコーナー、毎回2組が2曲ずつ演奏を披露して、選ばれた方がビークルのライブでセッションをする権利を得られる。

 

そして再び私の演奏。

二曲目に選んだのは、Weezerの「Island in the sun」の印象的なリフ。


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ヒダカさん「おお!これはWeezerですね!っていうか、なんでビークルの曲やらないの!いや、いいんだけどね!これも耳コピ?」

私「そうです…」

カトウさん「もうさ、オカモンヌちゃんここに出る器じゃないよ!耳コピでこんだけ弾けるんだもん!」

 

そして対戦相手の方の二回目の演奏も終わり、結果発表。

私は呆気なく敗北する。

 

ヒダカさん「〇〇さん(対戦相手)を選びました!オカモンヌちゃんはね、このコーナーに応募しなくても、後はメンバーさえ見つけたらすぐにステージに立てるよ」

カトウさん「そうだよ!おじさんが拾ってきたギターでね!まだ若いし、いいメンバーに出会ったらすぐバンドで活躍できるよ!頑張ってね!」

私「はい、ありがとうございます…」

 

お二人は優しくフォローしてくれたが、多分こんな寡黙なやつをステージに上げたところで、企画として全く盛り上がらんだろうという理由であることを薄々感じていた。対戦相手の方、めっちゃ明るくハキハキ喋ってたもんなぁ…

 

ビークルとセッションはできなかったけど、憧れのお二人に自分のギターを聴いてもらえたうえに、こんなにお褒めの言葉をいただいて、私はめちゃくちゃ幸せだった。

数年後、お二人が言ってくれた通りいいメンバーに出会えて、念願のバンドも組むことができて、なんと棚ぼたでCDまで出せた。メタルバンドだったけど。ギターじゃなくてベースだったけど。

 

ありがとうオールナイトニッポン。ありがとうBEAT CRUSADERS。ありがとうヒダカさん、カトウさん。

この出来事は私の人生のかけがえのない思い出と生きる糧になっている。

 

 

 

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