今週のお題「行きたい国・行った国」
今からちょうど16年前のこれくらいの時期に、高校の修学旅行があった。行き先はマレーシア。3泊4日の旅である。
3泊4日のうち、2日は首都クアラルンプールのホテルへ宿泊し、残りの1日はテメロー村という郊外の村へホームステイをするスケジュールだった。
マレーシアは多国籍国家であり、マレー語を母国語とし、英語を第二言語にしてる人が多く、テメロー村にいた人たちはご年配の方以外はほとんど英語が話せていた。
私はもちろん日本語しか話せないので電子辞書を相棒に、仲の良いクラスメイトの一人と一緒に一軒のお宅に泊めてもらうことになった。小学校の英語教師のご両親と3人の男の子の兄弟、おばあちゃんの6人家族だった。
家に着くと、ホストファミリーに日本から持参した小袋入りのお菓子(小枝)を、男の子の兄弟(小学生くらい)に渡した。お礼を言った後に即袋を開け、ハイテンションで部屋を駆け回りながら小枝を食べていた。
「イェーーーーーイ!!!ヤミィィィィ!!!!」
「あんなに喜んでもらえるなんて、やっぱり日本のお菓子って美味しいんだな」なんて思っていたら、彼らはいきなり食べ終わった小枝のゴミをポイポイと窓から外に投げ出した。大人はそれを注意する素振りもなく「よかったね、美味しかったんだねぇ」なんて言いながら微笑ましく眺めている。我々は唖然とした。
ここが日本なら(よほどDQNの親でない限り)間違いなく叱られる行為だが、彼らにとってはそれが善でも悪でもないようで、ただ当たり前の日常なのだと直感的に悟った。これがカルチャーショックか。
その後、ホストファミリーのお父さんが、今からうちの家族とみんなでドライブに行こう!と言うので、家族と共に車庫に向かう。止まっていたのは5人乗りのカローラが一台。
運転はお父さん、助手席はおばあちゃん。後部座席にお母さん、小学生の男の子が2人、そして私とクラスメイトがギュウギュウに詰め込まれた。(一番上のお兄ちゃんは友達と遊びに出掛けて不在)
後部座席だけで既に定員に達しているが、お構いなし。シートベルトを締めるという概念ももちろん存在しない。(お父さんとおばあちゃんは流石に付けてた)
「ゴー!ゴー!ショッピング!!ゴー!ゴー!ショッピング!!」
相変わらずハイテンションな子供達。そしてそれに呼応するように、椰子の木ジャングルに囲まれた村の道路を加速し続ける、無シートベルト定員超過カローラ。
クーラーが壊れているのか燃費を良くする為なのかは知らないが窓はフルオープン。車内は暴風どころの騒ぎではない。私は竜巻のような爆風に煽られながら、後部座席から恐る恐る運転席の速度メーターを覗くと、なんと時速180キロを超えていた。もう一度言うが、ここは高速道路でもない田舎の村の幹線道路である。あまりのスピードに、このお父さんは何者かに追われているのか、カーチェイスでもしているのかと心配になったが、周りを見ると他の車も同じような速度で並走しているし、同じ道路には猛スピードで走っている3人乗りの原付も存在した。
それらに全く動じることなく道路を横断する人や野犬もときどき見られた。なんて命知らずな村人達なんだ。
この国は道路交通法など存在しない無法地帯なのか。マッドマックスか。マッドマックスみたいな謎センスの改造車たちが、互いにぶつかり合いながらここを爆走してても、ここの村人達は何も言わなさそうだな。
しばらくすると、我々を乗せた暴走カローラは市場に到着した。八百屋さんの前で家族は立ち止まり、買い物を始めた。見慣れない南国のカラフルな野菜やフルーツが並んでいた。
「好きな果物を買ってあげるよ。どれがいい?」
とお父さんが言ってくれたので、一番無難そうなリンゴを選ぶと
「おいおい、それは日本でも売っているだろ?せっかくマレーシアに来たんだしこっちのほうがいいよ!」
とイボのような物で一面を覆われている赤緑色の不気味な果物を買ってくれた。なんなんだこれは。
お母さんは日本でも売っているようなみかんらしき果物を沢山買っていた。
一通り市場を見た後、また我々はカローラに乗り込んだ。相変わらず爆速で走るカローラの車中で、突如柑橘系の爽やかな香りが漂った。
助手席のおばあちゃんが先程のみかんを食べていた。爆風をもろともせず、無言でみかんを剥き食べ続けるおばあちゃん。
「おばあちゃんみかんが大好きなのよ!家まで待てなかったのね!」と笑うお母さん。
すると、みかんを食べ終わったおばあちゃんは、爆速カローラの窓から何の躊躇もなくみかんの皮を投げ捨てた。デジャヴ。さっきも見たぞこの光景。そして即座に後走車に轢かれるみかんの皮。私は子供の頃友達の家の64で遊んだマリオカートを思い出していた。
まだホームステイを始めて数時間しか経っていないのに、かなりの数のカルチャーショックを受けた私とクラスメイト。帰る頃にはあとどれだけショックを受けるのか、我々の心臓は持つのか不安になったが、その後も色々ありつつ無事に帰国できた。
ちなみに、市場で買ってもらった謎の果物はプラタンというらしく、あの後ホストファミリーのお母さんが剥いて夕食の時に出してくれた。
味はあまり覚えていなかったが、意外に美味しくて、不気味な食べ物だとか思って申し訳なくなった。
それ以来マレーシアには行けていないが、普通に旅行してたら絶対に味わえない体験をさせてもらえて、ホストファミリーの方々にはとても感謝している。今もみんな元気で(特に事故を起こさず)暮らしていると良いな。
追記 明日も続きます。
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